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シャーデンフロイデ 他人を引きずり下ろす快感 レビュー

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中野信子著【シャーデンフロイデ 他人を引きずり下ろす快感】のレビュー記事です。

全体の感想まとめ

・他人が失敗した時に感じる快感「シャーデンフロイデ」についての解説本。
・人が自分の中の「正しさ」を基準として人を攻撃したくなる心理についても、数多くの実験の結果を元に考察されている。

全体を通して、心理学の実験の内容が詳しく紹介されていて勉強になりました。
他人が失敗した時に抱く「ざまあみろ」の感覚、シャーデンフロイデについて知って、「ああ人間ってそんなもんだよなあ」というところを知ることはもちろんのこと、時に人は自分や自分の属する集団の「正しさ」を軸として、他人をこき下ろすものなのだということを考えるいい機会になりました。

レビュー詳細

この本を読むきっかけとなったのは、いわゆるリーダーシップやマネジメント系の本をよく読むようになってから、その内容の根幹としてよく取り上げられる「ポジティブ思考」について、言われれば当然のことであるとわかっているのに、それでも他人や環境の責任にしたくなるのはなぜだろう?と思ったところからです。
なぜ彼らは、とにかく人の批判ばかりしているのか?頑張ってやっていることが目に見えていて成果も上がっているのに、たまに失敗する人を見て批判して、悦に入っているのか?と思う瞬間がたまーにあるのですよね・・・

本書のタイトルである「シャーデンフロイデ」とは「自分が手を下すことなく他者が不幸、悲しみ、苦しみ、失敗に見舞われたと見聞きした時に生じる、喜び、嬉しさといった快い感情」とされています(Wikipediaより引用)。
つまり「他人の不幸は蜜の味」「他人の不幸で今日もメシがうまい」とかの類ですね。
成功している(と思われている)人が、大きな失敗をした時に思う「ざまあみろ」という感覚、なんとなくわかるところがあります。

自らの過去を振り返ってみれば、まあ確かに、輝いて活躍している人がいてそれを悔しく思っていて、その人がちょっと失敗したりすると「よっしゃ失敗した」みたいな、そんな感情を抱くことが少なくありませんでしたね。

本書ではこのシャーデンフロイデという感情をテーマに、その原因や背景について、さまざまな実験などで得られる詳細を考察しています。

ホルモンという側面から見て得られる知見が「オキシトシン」「AVP(アルギニン・バソプレシン)」です。
愛情ホルモンと呼ばれる「オキシトシン」の働きが、そのシャーデンフロイデを作っている、というのが本書の冒頭で書かれている内容です。
オキシトシンは、誰かとの間に情緒的な、特別な絆が出来る時に分泌され、愛情を感じるというホルモンですが、逆に、敵と認識した者に対しては(自分や大切な人の身を守るために)攻撃的にするという側面も持ち合わせています。
AVP(アルギニン・バソプレシン)もオキシトシンと非常によく似ていて、同じような働きをするものとして取り上げられています。

中盤から後半にかけては、自分の中で認識した「正義」と、それに反するものを許さない、そのためには何をしても許されるという心理状態があるということが、さまざまな心理実験などから考察されています。

自分だけは正しく、「ズルをしている」誰かを許せない。だから、そんなやつに対しては、俺/私がどんな暴力を振るっても許される。そんな心理状態によって実行に移される行動が、「サンクション」です。
(Kindle版より引用 位置No.604~)

自分や、自己を含めた集団の「正しさ」を軸にして、誰かを裁きたくなるようにできている、というのが脳の基本なのであるという理解が必要なのだろうと思います。
そして同時に思うのは、その知識があれば、その後に
・自分の考える「正しさ」は、他の誰かにとっては「許せないほどの間違えたこと」であること
・裁くことによるメリットとデメリットを比較した場合にメリットはさほどないことが多いこと
・理念を共有する集団において、絆を強めようとするがゆえ、「正しさ」について周りが見えなくなる可能性があること
などを客観的に認識し、その後「他人を攻撃するのか」「他人を攻撃しないのか」は、自らで「選んでいける」ということです。
シャーデンフロイデという感情があり、他人を引きずり下ろすことによる快感というものがある、という前提を持った上で、自分はどうなりたいのかを考えたら「他人を攻撃することはしたくない」となったのなら、意識的にそちらを選択することはできるはずです。

正しい、正しくないの基準は自分が過去の体験に基づく「価値観」を持つためです。
その価値観はよく「フィルター」「メガネ」などに例えられますが、まずはその価値観というものが全員違うということを認識すること。その後に、他人の価値観を「受け入れる」ということが有効だろうと思います。
そして、他人の価値観を受け入れるために必要なのが「自己肯定感」ということになるだろう、というのが自分の考えです。
自分で自分を認められていない(=自己肯定感が低い)と、自分の正しさを誰かに認めてもらう(=他者からの承認を得る)以外にそれを満たす方法がなくなります。その結果、自分の正しさを誇示して、時に人を攻撃するということにつながっていくのではないかと思います。

中盤から終盤にかけては、さまざまな心理学の実験が紹介されていて、ここがとても勉強になりました。

・2004年、チューリッヒ大学の研究
利己的な振る舞いをする人に対しては多くの人が自らコストをかけて罰を与えたがる
・ポーランド出身の心理学者ソロモン・アッシュの実験
どう考えても答えのわかる問題でも、周りにサクラがいてわざと間違えると正答率が下がる(同調圧力に負ける)
・コロンビア大学のシーナ・アイエンガーの研究
スーパーの試食コーナーに24種類のジャムと6種類のジャムを並べた場合、6種類のジャムの方が購買率が高い(人は、選択肢が多すぎることを望まない)
・行動実験「最後通牒ゲーム」
1人に利益の分配権があり、もう一方に「受諾か、拒否か」(受諾すれば分配権通り、拒否すればどちらもゼロ)という権利がある場合、分配権がある方の取り分割合が多いほど、利益の受け取りを拒否する割合が高くなる。
・ミルグラムの実験、2014年グルノーブル大学の実験
教師役と生徒役に分けて行い、電気ショックをかける。「責任を持つから、電気ショックをかけ続けろ」を言われれば、多くの人が死にいたるようなレベルまで電気ショックのレベルを上げる。
・ジンバルドーの「スタンフォード監獄実験」
看守役と受刑者役に分けてその役を「完璧に演じ切って」みてもらったところ、1週間で実験が中止になるほど看守は受刑者に対して暴力的になった。
・サードウェーブ実験
独自の新しいルールを設定し、それに従ってふるまうという運動をはじめたら、徐々にその運動が広がり、そこに反対する者に対して暴力的な反応をしたりするようになった。
・ニューヨーク市立大学バルーク校の研究
マクドナルドの店舗にて、「サラダなど健康を連想させるメニューが載ったリスト」「載っていないリスト」が渡される2群に分けたところ、サラダが載っているリストを渡された方がビッグマックを注文する率が上がった(=倫理的に正しい何か、を想像しただけで、免罪符を得たような感覚になる)。

ここ最近の自分の記事では、言葉を変えることが自分の行動を変える原動力になる、というようなことを書くことが多いのですが、「サードウェーブ実験」の部分を読んで、いやーやっぱりそうだよなあと思いました。
このサードウェーブ実験を行ったのは先生で、クラスの人が「ナチスドイツはなぜそんな、愚かなことをしたのか」とけなすような論調が主だったため、同じことをやってみるという実験をしたら、似たような形になった、ということです。

人間は、普段「そんなことにはならない」と思っていることにすら、目的を明確にして使う言葉と行動と習慣を変えれば至ってしまう、ということですので、どうなりたいのかを「選択」して、そこに至るためにどう「言葉」「行動」「習慣」を変えていくか、というのを、自らが考える「幸せ」の方向へと使っていければいいのかなあと思いました。